2018年のチャットモンチー『完結』に続いて、日本のロックシーンにとって重要なガールズバンドが解散を迎えます。
そのバンドとは4人組ガールズバンド『ねごと』
彼女たちは2019年5月より最後のツアーを開催。ファイナルである7月20日をもっての解散が決定しています。今回はデビューから解散に至るまでの彼女たちのキャリアを総括しましょう。
ねごとの軌跡
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2010年にミニアルバム『Hello! “Z”』をリリースしたことを皮切りに、これまでに合計5枚のフルアルバムを世に放った「ねごと」。
そのポップで柔軟でオルタナティブな側面をも持つ音楽性は幅広い世代のリスナーの心を掴んできました。
結成のキッカケはメンバーがまだ高校生だった頃まで遡ります。元々はプロのバンドとしての活動などは意識しておらず、コピーバンドとして結成されたそうです。
『ねごと』というバンド名の由来は「3文字で覚えやすく、夢の中なら何を歌っても良いため、ジャンルにこだわらない4人の音楽が作れる」とコンセプトから来ています。他にも「けむし」や「よだれ」というバンド名の候補があったとか(笑)
メンバー構成
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蒼山幸子(ボーカル・キーボード)
マルチプレイヤーであり、ピアノ以外にもギターやドラムを演奏することができるとのこと。ねごとの楽曲の殆どの作詞を手掛け、ライブでは鈴やカスタネットも披露します。
ピアノは小学校の頃から始め、中学ではマーチングバンド部に所属。
沙田瑞紀(ギター・コーラス)
ボーカルの蒼山同様、ピアノやドラムの経験もありマルチプレイヤーの一面があります。それに加えて、トラックメーカー、コンポーザーとしてもバンドに貢献しており、ほとんどの楽曲の作曲、アレンジを担当しています。
クラブ・ミュージックにも造詣が深く、DJとしてイベントにも出演しています。
ちなみに、ギターを始めたのは高校生になってからとのこと。
藤咲佑(ベース・コーラス)
小1から中3までの9年間ピアノを習っていた経験の持ち主。
しかし、現在は殆ど楽譜を読めなくなるまでピアノから遠ざかってしまったとのこと。
ベースはバンドを組んでから始め、ねごとのリーダーも務めています。
澤村小夜子(ドラムス・コーラス)
他のメンバーと同じくピアノの経験があり、三味線、マリンバ、箏の経験まであるメンバーです。
ドラムは高校に入ってから始めています。理由はバンド結成時、他のパートが既に決まっていたから。
残り物がドラムだったようです。
初ライブは2008年のこと。
そんな彼女たちが注目を浴びたのは、10代のアーティスト限定のコンテスト形式ロックフェス『閃光ライオット』の記念すべき第1回大会に出演した際のことです。
オリジナル曲を3曲携えて挑んだこのフェスで、なんとねごとは審査員特別賞を受賞。高校生にして、注目されるバンドとなります。ちなみに、この回のグランプリはGalileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)、準グランプリはBrian the Sun(ブライアン・ザ・サン)でした。
このフェスで彼女たちが披露したのが、彼女たちのライブ定番曲となる『ループ』。同曲は閃光ライオットのコンピレーションアルバムにも収録され、メジャーデビューミニアルバム『Hello! “Z”』でもリードトラックの役割を果たしています。
さらには、後にテレビ東京の「JAPAN COUNTDOWN」のエンディングテーマにも採用されるなど、その実力は10代の頃から覚醒していたと言えます。
ループ
不協和音を挟み込むことで、脳天をガツンと殴られたようなうねりのサウンドがクールな『ループ』
高校生でこんな曲を作り上げていたことに驚きです。
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この曲が頻繁に流れていた頃のSCHOOL OF LOCKが好きだった。
メランコリックなのに明るいという不思議な矛盾が、その不協和音が心地よい印象を与えている矛盾によって表現されています。
チャットモンチー以来はじめて好きになったガールズバンド!ガールズバンドっていいよねー
活動の本格化
メンバー全員が大学に進学しながらも、ねごとは活動を継続し、本格化させていきます。
2011年には1stフルアルバム『ex Negoto』をリリース。本作に収録されている『カロン』はauのCMソングに起用され、彼女たちの知名度は飛躍的にアップ。
その年のサマーソニックやロッキンジャパンフェスティバルなど、数々の国内の大型音楽フェスに出場しました。
このアルバムはチャットモンチーを手掛けた経歴もある有名作詞家・プロデューサーのいしわたり淳二がプロデュースを担当しています。
この『ex Negoto』はASIAN KUNG-FU GENERATIONなど、多くのアーティストにも評価され、その後の数多くの対バンのキッカケともなりました。
自主企画音楽フェス『お口ポカーンフェス⁈』
ライブ活動を精力的に行い、多くのバンドと交友を深めていったねごとは自主企画の音楽フェス『お口ポカーンフェス⁈』を定期的に開催。
この企画の通して、藍坊主、plenty、a flood of circle、オワリカラ、group_inou、TOTALFATなど数多くのバンドと共演を果たしました。
ねごとの数々の名曲たち
それでは、これまでにリリースされた数々の名曲を振り返っていきましょう。
カロン
auの音楽配信サービス「LISMO」のCMに起用され、ねごとの名を日本中に知れ渡るきっかけになった曲『カロン』
駆け抜けるようなビートとメロディーに、エレクトロポップの要素を混ぜ込んだ当時のねごとを象徴するような音像です。
最後のサビに向かう直前のフックの聴かせ方にもセンスを感じます。
この動画に寄せられたコメント
解散の報を聴きつけて久し振りに来ました。 やり切ったことを確認し合った上での解散ということで、悲しくは有りますが、次なる門出をお祝いします。
LISMOのCMってなんでこんな耳に残ってんだろうね。 flumpoolの花になれとか、レミオロメンのsakuraとか、NICOの手を叩けとか。
当時の彼氏からの着メロ。 偶然、その彼も、私からの着メロをこれにしてて、それ聞いたときは、その偶然がめちゃくちゃ嬉しかった。 若かった笑 たのしい恋だった。
歌詞がすごくうまくできていて、表現がきれいでいて飾ってない感じがなんともいえず好き。だれでも思いつくような歌詞の曲が人気になりがちだけど、こういう曲がいいな。
Sharp ♯
機動戦士ガンダムAGEに起用された1曲『Sharp♯』(読み:シャープ)
ストレートなギターロック色の強いこの曲は「少しでも前に進みたい」という気持ちを込めて、音楽で「半音上がる」という意味をもつ「♯」がタイトルになりました。
この曲に寄せられたコメント
ガンダムAGEから入って、今じゃこのバンド普通にお気に入り
この曲を聴いてれば不安を希望に変えて未知の世界に突っ込んでいける気がする。
一瞬の光なんだ、って歌詞のごとく、くどい演出とか一切なく一瞬で駆け抜けて行くこの曲が本当に好きです。
ライラライラライライラライラライ♪♪♪ねごとで一番好きな曲デス(*^^*)
メルシールー
シンプルながら、強烈なインパクトを残すイントロで始まる『メルシール―』
2分15秒を過ぎたあたりのヘビーな展開なども「ガールズバンド」という範疇を超越したものとなっています。
私のオススメの1曲です。
この曲に寄せられたコメント
イントロと歌い出しだけで良曲と判る
「心臓の鼓動より 運命の影は早く」 なんて新鮮な言葉なんだ........ 素晴らしい!
この曲はもっと評価されていいんじゃないかな。 他の曲に比して地味に感じるかもしれんけど、こういう曲がその後の彼女たちを形作るんじゃなかろうか。
いろんなバランスがぴったり調和している曲だと思います声質・世界観・リズム・展開、サビの入り方も3回とも最高
ETERNALBEAT
バンドサウンドという枠を飛び出したエレクトロチューン『ETERNALBEAT』
『カロン』や『ループ』と比べると、彼女たちが同じところに留まることなく、進化し続けてきたことがよくわかります。
この動画に寄せられたコメント
新曲出すたび、ニューアルバム出すたび、進化した新たなねごとの音楽をファンに届けてくれる。曲を聴けば聴く程、ねごとの世界に引き込まれる。本当にねごとはすごい、最高です、かっこいい。
おそらくもっと共感される分かりやすいイマドキな歌詞の曲を作れば更に人気が出るのでしょうがそれをしないのがねごとの良いところですよね。
毎回、毎曲いろんな表情を見せてくれるねごと。どの顔も魅力的で毎回魅せられてしまう。
後期のスーパーカーのよう。
アシンメトリ
同じく4thアルバム『ETARNALBEAT』に収録されている『アシンメトリ』は、上で紹介した『ETARNALBEAT』で感じることのできた彼女たちの音楽性の変化を確信へと変えます。
2分10秒あたりからドラムンベースを交えた空間が捻じ曲がるようなサウンドはEDMアーティストも脱帽してしまうのではないでしょうか。
ポイント
中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)がプロデュースした楽曲として注目を集めました。
この曲に寄せられたコメント
女子4人のバンドなのにドラムがすごく力強い。 しかも電子音の使い方上手いし、蒼山幸子さんの声可愛い。 つまり最強。 ねごと最高です!
なんか女性版サカナクションって感じ...! いいですね
ねごとの曲はバンドスタイルの方が好きなはずなのに今回のアルバムではこの曲ばっかりリピッてしまう。それぐらい惹き付けられる不思議な魅力あり。カッコいいのはドラムとギターだけじゃないね。四人全員最高!
もともとエレクトロの筋はあった彼女たちですが、その道のビッグネームとの出会いはちょっとしたケミストリでしたね。オレの2016年ベスト!
DANCER IN THE HANABIRA
ラストアルバム『SOAK』からのリードトラック『DANCER IN THE HANABIRA』
このアルバムが最後のアルバムになると分かって制作したのか否かはわかりませんが、これまでのねごとの経験が見事に花開くナンバーになっています。
この曲に寄せられたコメント
音楽性が明らかに飛躍してる。確実にねごとの音楽性が変革を迎えようとしてる。アーティストとして肯定されるべきことだけど、受け入れてついていけるファンとそうで無いファンに分かれそうだな。
いやもう、すべてが最高 非の打ち所がないガールズバンドすごいわ~いや~すごい
最強のガールズバンドはねごと
4人がかっこよすぎる。真ん中でキーボードを手放した幸子さんが踊り、瑞紀さんと佑ちゃんが線対称で外側向いて、小夜子さんがストイックに叩く。それぞれの配置がこの曲とバランス取れてる。計算されてる。最高の曲の最高のMVですわ。
空も飛べるはず
スピッツの代表曲である『空も飛べるはず』をねごとがカバー。
土屋太鳳が主演を務めた映画「トリガール!」のテーマソングとなり注目を集めたナンバーです。
この曲に寄せられたコメント
ガチガチのSpitzファンの俺からしてもこれはいいカバーだと思う。 空も飛べるはずの世界観を保ちつつ、しっかりとねごとの良さも感じられた
リピートする手が止まらない・・・。 ねごとのことはよく知りませんが、バンドの音とスピッツの原曲の良さが とてもマッチしていて心地良いですね。早くCDを買ってフルで聴きたい。
こういうところで一回でもいいから歌ってみたい。 みんなが笑顔になって、楽しい気持ちになる歌が歌いたい。そして、自分で精一杯の歌を歌って気持ちよく終わりたい。 とりあえず、有名になって、人を楽しい気持ちとかになって、自分も後悔しないようにしたい。
サタデーナイト
再びBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とタッグを組んだ楽曲『サタデーナイト』
どこか終わりゆく何かを悟ったような哀愁の漂う曲です。
この動画に寄せられたコメント
解散を知った後にこの曲の歌詞をあらためて解読していたら、 なんか、目頭が熱くなってきた…
ツアーでの事を覚えてる。 アシンメトリからこの曲で雰囲気が一変して、本編が終わっても余韻が残っていた感じ。 だからこそ、この映像嬉しいです。
ありがとう。ロードバイクをやっていて、その関連で季節から彼女たちを知った。ねごとの音楽がそれからしばらく生活の一部になった。
I love you guys, please make more of your MVs available in the US!(大好きだ。もっとMVをアメリカでも視聴できるようにして欲しいよ)
ラストツアーの日程
「お口ぽかーん!LAST TOUR ~寝ても覚めてもねごとじゃナイト~」
5月28日(火)東京・LIQUIDROOM
6月1日(土)大阪・BIGCAT
6月2日(日)香川・高松DIME
6月8日(土)栃木・HEAVEN'S ROCK Utsunomiya 2/3
6月14日(金)北海道・札幌cubegarden
6月21日(金)福岡・DRUM Be-1
6月22日(土)広島・SECOND CRUTCH
6月28日(金)宮城・仙台darwin
6月30日(日)新潟・GOLDEN PIGS RED
7月14日(日)京都・京都MUSE
7月15日(月・祝)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
7月20日(土)東京・Zepp DiverCity TOKYO
解散後の進路
気になるのは彼女たちの今後の進路です。
解散発表の際、各メンバーから、これまでの感謝の気持ちと解散後への意気込みが表明されましたが、音楽活動の継続をほのめかしたのはボーカルの蒼山幸子のみ。
その他のメンバーは今後の活動について明確には言及していません。
誇れるメンバーと誇れる音楽を作ることができました。ここまで続けてくることができたのは、聞いてくれたみなさんのおかげです。本当にありがとう。
これから先も音楽は続けていきたいと思っていますが、ねごとで過ごす残りの時間を悔いなく大事に歩んでいきたいと思っています。最後のツアー、どうか見守っていてください。
蒼山幸子
ねごとの解散について考える
ねごとの解散を通して、バンドの解散というものについて改めて考えてみましょう。
バンドが解散すると聞くと、「曲が売れなくなったから」や「メンバーの中が悪くなったから」という憶測に至ってしまうことがありますが、果たして本当にそうでしょうか。
実際に、解散や活動休止を選んだバンドに目を向けてみましょう。ELLEGARDENやイエローモンキー(どちらのバンドも活動を再開していますが)など、人気を博している最中に、そういった選択をするバンドは少なくありません。
かのビートルズでさえ世界で1番の成功を収めたバンドであったにもかかわらず解散を選んでいます。バンドではありませんが国民的人気アイドルグループである『嵐』の活動休止の発表も皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか?
嵐のメンバーは堂々たる成功を収めているうえ、不仲にも見えませんよね。つまり、グループの解散は「不仲」や「人気の低迷」という単純な理由だけでは語れないということです。
「じゃあ、何が原因なの?」と尋ねられると困ってしまいますが、ここでお願いしたいのはそういった「大人の事情」と「解散」を自動的に結び付けてしまうのは短絡的であり、最後まで全力で走り続けたいアーティストにとっては不本意な誤解になってしまいます。
特にバンドという表現者の集合体は、同じのような楽曲を只々生産して、人気を得るという商業的な安定志向とは真逆に位置する存在です。解散となると複雑に入り組んだ理由が必ず存在するものです。
ねごとの解散理由にフォーカスしてみましょう。
ねごと解散発表の一部
デビュー10周年を目前に控え、メンバーでバンドの今後について幾度も話し合った結果、この4人でできることは精一杯やりきったという結論になりました。
ねごとという形には終止符を打つことになりますが、これからはそれぞれの新たなステージに向けて歩んでいきたいと思います。
オフィシャルサイトに掲載された解散のアナウンスには「4人でできることは精一杯やり切った」という言葉があります。
それ以上の詳しい説明は述べられていませんが、すべてがこの言葉に集約されているように感じます。
つまり、「ねごと」という1つのフォーマットでの可能性を発揮し尽くし、そのフォーマットが役目を終えたという考えがベースにある解散と捉えることができます。もちろん我々には明かされることのない要因もあるかもしれませんが、それも知る術もなければ、知る必要もないでしょう。
彼女たちの音楽に感銘を受けたことのある人なら、彼女たちの言葉を正面から受け止め、完全燃焼を見守りましょう。
それが彼女たちへの尊敬と労いの意思表示になると思います。
まとめ
閃光のように瞬く間に全力で音楽シーンを駆け抜けた彼女たち。解散はとても残念ですが、バンドの解散は、メンバーの新たな人生の始まりでもあります。
また、解散後も音楽活動を継続するメンバーにとっては、新たな音楽を制作するためのクリエイティブなイベントと考えることすらできます。
最後のツアー、そして解散後の彼女たちを温かく見守っていきましょう。